帳がひらけて夜が明ける
目まぐるしい速さで
感情と感覚の境界線上を
色彩がうごめいている
地平の果ての小都市から
こちらを振り返って見てみたい
熟れた柿色のカーテンが
住宅地の向こうへ吸い込まれて
あらたな砂漠の蜃気楼が
灰色の天蓋を覆ってゆく
だれかがひっそりと眠りにつき
夜通しの疲労の足音が遠ざかる
混じり気のない空気に
鳥の声はさえずりというより
もっと活発な励まし合いのようで
わたしははじめての挨拶を
いつまでも胸に仕舞っている
変わっていくということは
失い続けるということで
なにかを失うということは
なにかを失ったと感じること
そういうこと
きっとそういうことだと
熟れた柿色はだんだんと薄まり
蜜柑色になり桃色になる
きっとわたしはなにひとつ
失ったことなどなかったのだと